空前のファミコンブームにより爆発的に増えたファミコンユーザー。上質のゲームには多くのユーザーが買い求めました。
その結果、楽しみにしていた発売日に手に入れられない不幸なユーザーをたくさん生んでしまいました。
「まだ入荷してないの?一体いつ入荷するの?」
先の見えない日々・・・。スーパーマリオブラザーズで味わった過酷な日々がフラッシュバックします。 ドラゴンクエストⅡでも売り切れ・・・。自分が寂しい思いをしている中、みんなはどんどん先に行っている。・・・大絶望!!
「もう、あんな思いはしたくない!よし!他人を出し抜き、先に手に入れる!」その欲望は店頭に長蛇の列を作りました。
それは1988年2月10日。ビッグタイトル、「ドラゴンクエストⅢ」の発売日。全国のおもちゃ屋、デパートで一斉に発売。
私は佐賀県・・・佐賀県といえば はなわでお馴染みですがドのつく田舎。見渡す限りの田園風景。干潟に生息しているむつごろう。空に障害物が無いほどの田舎ゆえ、バルーンフェスタの格好の開催地となっている。
しかしさすがに駅前はそこそこ都市の様相を見せる。そんな駅前にある、とあるおもちゃ屋さん。今はもう無いが・・・。
そんな静かな地域がドラクエ3の発売日によって惨劇に引き裂かれてしまうとは誰が想像できるでしょうか!
こんな田舎に育ったウブな俺たち。初行列というどこか小旅行にでも来てるようなもの。その日はテンション上がりっぱなしの俺達。
周りもだいたいそんな感じ。ゲームボーイで対戦プレーに興じる人も。
なんかもうお祭り気分です。
いつもは通勤、通学で忙しい駅前が静寂に包まれ、そこにポツンッとおもちゃ屋さんだけが暖かなコントラストが...。それがなんともいえない気分に。
そんな穏やかに流れる雰囲気が一転してあのような惨劇になるとは誰が想像したでしょう!!
穏やかな夜が少しづつ明けていきます。
その日はおそらく早めに開店したかと思います。
ガラガラガラ・・シャッターが開く音に周りがザワつき始めます。ざわざわ、ざわざわ。
後ろを振り返るとものすごい行列が!!「うわ!まぶしいっ」周りはすっかり明るくなっています。列の前のほうでずっと友達と会話していた私達は全然気がつきませんでした。
夢のような穏やかな雰囲気から一気に現実に引き戻された感覚を覚えました。
しかし店の主人には地獄絵に見えたようです。この行列を目の当たりにした主人の表情がみるみる青ざめていく様子が見て取れました。お店にはスタッフと呼べる人員はいません。しばし奥へと引っ込んだお店の主人は拡声器を持って出てきました。
「整理券をくばりまーす」
今考えるとなぜ拡声器を持ってこんなことを言ったのか・・・バ●としか思えん。
後ろのほうからものすごい勢いで押され始めたじゃありませんか!
もうその勢いたるや
「うぉぉぉおおおおりやゃゃゃやややああああ!!」
私はそのとき思いました。「ここは世紀末...」
初めて味わう尋常でないパワー。子供の俺らはとてもじゃないです。
ヘタすりゃ死人が出てもおかしくないくらい。
「あ、やばい潰れるわ。俺」とつぶやくも友達さえどこにいるかわからない。そんな状況。
・・・しかし!見つけた!
俺とほぼ同じ絶望的な状況。愚劣な輩どもが小さな友におぶさっています・・・。民度という概念すらない世界・・・。
友達が苦しんでいるのに何も出来ない自分。
今振り返ってみてもそりゃ恐ろしい。
このならず者達が清く正しいRPG、ドラゴンクエストを本当にやりたいのか・・・はなはだ疑問ではありましたが・・・。
「もうダメだ・・・」
いや!ここまできて整理券をもらわないわけにもいかない!必死に手をお店の主人の前に差し出してました。
お店の主人が猛烈に困った顔をしています。
この状況を作ったのはあんただ。
拡声器であんなこといえばこの辺のスペードやらキングやらには「列無視して集まって下さーい」って言ってるのと変わんないんだから。
その時、お店の主人の周りには何十本もの手が差し出されています。誰から渡していいのか困っている様子。ハッキリ覚えているな。元気かなあの人、店もう無いけど。
もはや順番もへったくれも無い状況。並んだ意味無し。you are shock!!
「これ、無理かもしれんな・・・」
と、そのときです。手になんか置かれた感触が。
握り締め、手を引き抜くとそこには整理券が。
「おおおおおお!キタ!!」
てか、俺は順番的には前だ。お店の主人が黙って並んでいる順に整理券渡せばこんなことにはならなかったんだよ・・・。
ほん・・・っと●カだ。 元気かな・・・。
穏やかなひとときから絶望、そして歓喜。
気持ちをジェットコースターのように揺さぶられた一夜でした。
いやはや・・・。
あれからもう行列にならぶことは一切なくなりました。
家に帰ったらあのマイクタイソンがKOされてたがもはや驚く元気はなかった・・・。